K博士の調査によれば、桐原村では全人口の8パーセント以上を70歳以上のお年寄りが占めていた。
上野原は衷尽からわずか1時間半程度のところだ。
これは当時、巫尽のような大都市の近くではきわめて珍しいケースといえた。
山の斜面に広がった桐原村では水田を開くことができず、昔から山畑でムギ、アワ、ヒエなどの穀類のほかにニンジン、ゴボウ、サトイモなどの根菜づくりがさかんだった。
そしてイモ、ニンジン、ゴボウやコンニャクの煮物をさかんに食べてきた。
ウンコのたくさん出る食事である。
そしてお年寄りはみな、朝早く起きて畑仕事をこなし、夜は早く寝るという規則正しい生活を送っていた。
適度な運動とウンコのたくさん出る食物繊維の多い食事が、この地域の住民の長命に大きなかかわりがあったことはまちがいない。
K博士とは別にこの桐原地区を研究した人がいる。
甲府の医師、H医学博士だ。
K博士はいまから30年前に桐原地区の長寿に注目し、この地域の食生活を研究して、全国に桐原の名を知らしめた。
博士は、桐原地区の長寿はやはり「穀菜食」によるものだと、K博士と同じ結論を出している。
じつをいうと、この桐原地区を長寿村とするK博士、K博士らの調査には、その後、異論が出されている。
K博士の長寿村・短命村という分類は、平均寿命を基準にしたものではない。
人口に占めるお年寄りの数がどれだけ多いかを問題にしている。
K博士が長寿村・短命村の基準としたのは、70歳以上のお年寄りの数を全人口で割った数値だ。
したがって、過疎地のように若い人が少ない地域では、相対的にお年寄りの割合が高くなるから、その村は、長寿の人が多くなくても長寿村ということになってしまうというのだ。
また、現代の日本では、K博士が調査した時代より格段に平均寿命が伸びている。
もはや70歳ぐらいでは長生きとはいえなくなった。
いまなら70歳以上ではなく、80歳以上にすべきだろう。
過疎の問題もあるから、都市に出ていった若年層の人口も入れて計算すべきだろう。
皮肉なことに現在、桐原地区の平均寿命は全国平均よりも低くなっている。
日本の平均寿命は男性77.16歳、女性84.01歳(1998年・厚生労働省調査)に対して、桐原地区の男女の平均寿命は77.2歳と全国以下なのだ(町役場町民課の話)。
これは、桐原にバスが通うようになった1954年以来、人びとの生活習慣や食生活が大きく変わったのが理由と思われる。
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